今春、新たな旅立ちを始める皆さんへ

「サクラサク」の電報や社会人になるなど、あなた方にとって初めて経験する、新しい世界との出会いが産まれることと思います。
自宅から通う場合はともかく、新天地での生活は不安、驚き、心細さの連続でしょう。
それは、ほぼ全員が同じ条件なのです。
十代でたくさんの経験をしている人なんてほとんどいません。
新しいスタートの意味は、新しい経験が始まることにあるのです。
私のようなおじさん世代は、つい自分の視点で物事を見てしまいがちですが、私自身が18才の頃を思い起こしてみると、赤面の連続であります。
では、ひとつひとつ、当時を見ていきましょう。

おじさんの地理編
広島県出身の私は、東京という街に来てたまげました。
人の多さと地下鉄の雰囲気に慣れるだけで約2週間かかりました。
そのような中で、下宿を探さなければいけません。下宿探しは不動産屋との直接交渉(8件ほど回り、20近い物件を見ました。)、電気とガスの契約は東京電 力と東京ガスへ、大家さんへの挨拶、各種店舗の探索散歩(スーパー、弁当屋など)を重ねたことで、生活に必要な最低限の地理を覚えました。
しかし、右も左も北も東もわかりません。案内表示板を見ればいいのですが、田舎モノゆえ、案内を見るのがはばかられました。地元の人は堂々と見ているのですから、今思えばバカみたいな格好つけをしていたわけです。

生活編
男ですから、生活道具に何が必要かわかっていません。
まだ便利なノウハウ本がない頃でしたから、弁当を買って来ても調味料やハシがなかったたり、贅沢をしてコーヒーメーカーを買ったのはいいものの、豆を買ってない。今度はペーパーフィルターがない、最後にはカップを買い忘れていて飲めませんでした。
ご飯の炊き方なんて当然知りません。
友人に聞き、コメを磨ぎ、なんとか炊けましたが茶碗がなくて、スプーンで炊飯器のご飯を食べた想い出があります。
カラーボックスの有用さには助かりました。ただ組み立てには往生しました。安い布を買って来てカラーボックスに押しピンで留めて食器棚にしましたっけ。
不便でも寝泊りできるまでに買い揃えるのに1日半。足りないモノを買いに行くのですから、10回以上下宿と店を往復したものです。
テレビもラジオもない部屋でしたが、これが自分の城かと、わくわくしながら寝転がって天井を見ていました。
食器、つまようじ、コップ、テイッシュ、ゴミ箱、スタンド、机・・5月の連休までになんとか揃えました。

バイト編
包丁を使ったことがない、ご飯なんて炊いたことがないという野郎が選んだのは、あるファミリーレストランの厨房でした。
ここでは、仕込みから鍛えてもらいました。運動部出身で上下を尊重したのが良かったのか、性格がボケていたのか、私ひとりだけニックネームをつけられて、店長、おばちゃん、先輩、年下だけどバイトでは先輩の女の子たちから可愛がってもらいました。
しかし、何にも出来ないというより知らないのですから、教えるほうも大変だったでしょう。失敗したくないので、くどいくらいに聞いて覚えていきました。
包丁の使い方、ご飯の炊き方、パスタの仕込み、パン生地の発酵、鍋の振り方、盛り付けの仕方、みじん切りなどを学びました。
ここを皮切りに、20種類以上のバイトを経験していきますが、勉強に支障がないこと、自分の経験として役に立つことという条件でバイトを探しました。

勉強編
私の大学はマンモス校といってよいところで(当時は4万人近い学生数でした)、授業のためのオリエンテーション、学用品を揃えるのも苦労しました。
知人なんてゼロです。要領なんてわかりません。
クラスの仲間にいろいろ教えを乞いました。でも、みんな同じでした。
知らない者の集りが大学です。だから勉強して経験するのです。知っているヤツなら来る必要ないですもの。
幸いなことに、勉強グループ(後でわかりますが、ノートを貸す側になる集まり)の友人が最初に出来たものですから、叱咤されたものです。
遊びのグループもたくさん出来ましたが、これは注意しないと簡単にレールが外れます。向こうが思うほどつきあいは気にしなくてよく、断ってもなんとも思っ ていないものです。誘いの5回に1回でもつきあえば、良いほうの部類です。遊びグループは自分にわがままですから、意外につきあいが悪いことを知っておい てください。

お話したいことはたくさんありますが、一番申しあげたいのは、初めての経験の連続で疲れないようにして欲しいこと、自分だけが出来ない・知らないのではなく、同級生全員が何も知らないということです。
あせってはいけません。
これから学び、経験を重ね、最初の結果を求められるのは数年後です。
そして、周囲に甘えることです。
新しい生活のスタートに向けて、おじさんからの応援の言葉です。