この時期に・・・

YKKという会社をご存知でしょうか? 世界一のファスナーメーカーです。
この会社を創業したのは、吉田忠雄。彼のエピソードから、現在の私たちが受け取るべき行動指針を考えてみたいと思います。

明治41年 富山県で吉田は生まれました。尋常小学校のときに担任の先生から「世に出て、偉くなった人の伝記をじっくりと、かみしめて読みなさい」と教えられました。
伝記を読み漁る吉田少年ですが、一番大きな影響を受けたのは、世界の鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギー伝でした。今でも「人を動かす」「道は開ける」など、ビジネスマンの読むべき本にもなっていますが・・・

カーネギーは貧しい家庭に育ったために、教育をあまり受けることが出来ませんでした。努力して製鉄工場を設立し、カーネギーホールを寄付するまでになります。
彼の成功の秘訣は「他人の利益をはからなければ、自らも栄えない」を人生をかけて実践したからだと晩年に本人が述べています。
吉田少年は、この言葉に感動したそうです。

その後、吉田少年は家庭の事情で進学を断念します。高等小学校を卒業すると、働きに出ます。このとき、上の学校に進む子供との差に悔しさが出たそうです。しかし、進学が出来なかったからといって負けないぞ。自分は最善を尽くす人間になろうと誓いました。
学歴がない、お金がないといって夢をあきらめない、ここに学びがあります。

当時の地方と東京の格差は、現在以上ですから「オトコが頑張るには東京だ」と、昭和3年に上京して仕事を探します。でも、「雇ってください」といっても、 なかなか仕事があるはずはありません。それでも、仕事を求めて歩き、中国から花瓶や壷など陶器を輸入・販売する会社で働けることになりました。
仕事がないのを他人のせいにせず、自分で一生懸命に探した努力を見習いたいものです。

新人の吉田は、どのようにしたら会社の役に立てるかを考えました。まだ在庫管理などが徹底していませんし、当時の小さな会社ですから「この皿を10枚」と注文が入っても、倉庫のどこにあるのか、誰もわからない状態でした。
暇ではない仕事の中で、整理整頓を徹底、在庫の一覧表を作り上げたのです。お客さまから注文が入れば、即座に対応出来ますし、逆にない場合は在庫が生憎ありませんと、即答できる会社になりました。

社長からの信頼は大きく、中国に派遣され、上海での仕入れをまかされるようになりました。そこでも社長に安心してもらうために、毎日、報告、連絡、相談を徹底しました。
社長の安心、組織も安泰しますが、この会社は当時の世界大恐慌のあおりで倒産します。
会社の倉庫には中国に輸出するためのファスナーが残されていました。吉田はこれを買い取りファスナーの製造販売の会社を3人でスタートさせました。これがYKKの前身です。

努力と工夫を怠らない吉田ですから、昭和13年頃には80人ほどに成長します。
ところが太平洋戦争、東京大空襲ですべてが燃えてしまいました。
ここから吉田は富山に戻り、事業の展開について考えます。
「他人の利益をはからなければ、自らも栄えない」というカーネギーの言葉から、経営方針を「善の巡環」とします。この言葉は吉田が作った言葉で辞書にはありません。
「善の種を蒔けば、それは必ず巡り巡って、幸せの輪が広がっていく」という意味です。
「善の種」とは「常に相手を思いやる優しさ」であり「他人の利益をはかる精神」と吉田は書いています。

昭和30年代になると「原料から製品まで」と一貫生産を目指します。社内の反対に対してし「YKKはファスナーメーカーであり、消費者に品質の高いファス ナーを安定して、安く提供するためには材料から作るべきだ」ということで、莫大な費用を投じて、アルミ合金の研究を実施します。
世界からは「これほど品質が優れたアルミ合金は世界で2つの会社しか製造できない」という評価を得るようになりました。

吉田は「ヨソがとりかかろうとするときに、こちらは次のことにとりかからないとダメになる。「失敗を恐れるな」。3割失敗しても構わない。失敗しても左遷はしない・・」
企業である以上、利益がなければやっていけない。利益に関して吉田が述べているのは
「YKKが生産した製品が、人々の豊かな暮らしのお手伝いをしていると実感するときに「仕事が面白い」と感じる。その結果として利益が出る、こんな有り難いことはない。
ところが世の中には、この反対からスタートして事業を進めようとする人がいる。金儲けをしたいために仕事をする。自分にはその人たちは「利益むしか見ないのでお客のことを考えていない。しっぺ返しがくる」

昭和48年第四次中東戦争により、オイルショックとなります。一晩で石油に関連する商品は価格が2倍になりました。国中がパニックになりました。当然、YKKも原材料が2倍になりました。
49年の正月、新年会の席で吉田は「YKKは100億円損をしても値上げはしない。現在の狂乱物価が長く続くはずがない。平常に戻るまでの値上がり分はYKKが損をかぶる。
販売店の皆さまは在庫を気にせず、消費者に尽くしてください。値上がりを待っていたら儲かると思っても、いまこそ消費者に尽くす年と考えます」
予想通り、数ヶ月で事態は沈静化していきます。オイルショックで各社が値上げする中で、「損をしても消費者にサービスをする」と宣言したため大きく報道され、YKKの信用
が一段と高まったのはいうまでもありません。

吉田の伝記の要約ですから、脚色もあります。
しかし、学校に行けず、工夫して働いて、世界大恐慌で倒産し、戦争で無一文になり、オイルショックで大変な目に逢った経営者から、学ぶことがあるはずです。

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